海外取引での法的紛争に備えるための契約条項とは?

近年では、海外企業と取引する中小企業も急増しています。場合によっては、海外と取引せざるを得ないという会社も少なくないでしょう。

海外企業との取引においては、日本企業との契約以上に契約書の役割が重要です。

日本企業同士の日本国内での取引では、契約書に定めなくても当然に日本法が適用され、紛争が生じたときは日本の裁判所の判断に服することになります。

しかし、海外の会社との取引の場合、そもそもどの国の法律に従って契約内容を解釈するのでしょうか。また、裁判になった場合は、どこの国で処理するのでしょうか。

海外企業との取引においては、紛争が生じた場合に、どこでどうやって解決するのかという点を契約でしっかり定める必要があるのです。

今回は、海外企業との共通認識として契約書に盛り込んでおきたい3つの条項についてご説明します。


1. 準拠法

まずは、当該契約をどの国の法律にしたがって解釈するか、すなわち準拠法の条項です。準拠法は、その契約に関する法的紛争を解決するためにどの国の法律を適用するかという問題です。

日本では、企業間の法的紛争に民法や会社法といった法律が適用されますが、外国にも民法や会社法に相当する法律はあり、その内容は国ごとに異なります。そのため、法的紛争にどの国の法律が適用されるかは重要な問題なのです。

準拠法は、訴えが提起された国における、準拠法を決定するルール(国際私法や抵触法といいます)に従って決定されます。訴えが提起された国の法律が自動的に準拠法になるわけではありません。

日本の場合、「法の適用に関する通則法」という国際私法に従って準拠法が決まります。この通則法には、準拠法は当事者が選択した地の法によると規定されています。それゆえ、日本で訴えが提起されて通則法に基づき準拠法を定める場合には、契約書において当事者が指定した国の法律が準拠法になります。

準拠法を定めていないとどうなるか

では、契約書において準拠法を定めていない場合はどうなるでしょうか。

通則法は、当事者が準拠法を指定していない場合には、当該行為に「最も密接な関係がある地の法」(最密接関連地法)によると定めています。ある契約において、どこが「最も密接な関係がある地」であるかは、個別具体的な事情により異なります。

ただ、物の売買契約の場合、物引渡しを行う売主の所在地の法が最密接関連地法と推定されます。例えば、日本企業とベトナム企業の間の、日本から製品を輸出してベトナムで販売する契約について日本で訴訟が提起された場合です。契約書に準拠法の定めがなければ、当該契約は日本法で解釈される可能性が高くなります。

契約において準拠法を定める場合、契約解釈のベースとなる法律を決める条項ですので、当事者間でのタフな交渉がされることも多くあります。

取引上の力関係が強い当事者の国の法律が準拠法になる場合が多いと思いますが、当該契約解釈のベースであるため、簡単に妥協することなく交渉する姿勢が重要です。

準拠法条項の例

準拠法について定めておきたい場合は、契約書に以下のような条文を盛り込みます。

第〇〇条(準拠法)
本契約及び本契約に起因する、又は本契約が企図する取引に関連する全ての請求(不法行為、及び他の契約に基づくものではない全ての請求を含む)は、法律に基づき決定される準拠法にかかわらず日本法を準拠法とし、解釈されるべきものとする。

2. 裁判管轄

裁判管轄の条項とは、契約に関する紛争をどの国において解決するかを取り決める条項です。

実務上、準拠法と裁判管轄を一致させるケースが多いですが、必ずしも一致させなければならないわけではありません。

準拠法がベトナム法で裁判管轄が日本であれば、日本の裁判所において、日本の裁判官がベトナムの法律をベースにして当該契約の解釈をすることになります。ただし、実際には当事者(代理人の弁護士)がベトナム法の文献や解釈を裁判所に紹介する必要があります。

裁判官が契約を解釈するにあたっては、自国の慣習や文化をベースにします。また、司法制度も国によって異なるため、裁判官に対する信頼度も異なります。

そのため、どの国で紛争解決するかを定める裁判管轄も、準拠法同様に重要な規定です。

裁判管轄条項の例

裁判管轄について定めておきたい場合は、契約書に以下のような条文を盛り込みます。

第〇〇条(裁判管轄)
本契約に関連して当事者間に発生するあらゆる紛争は、東京地方裁判所の専属的裁判管轄に服するものとする。

3. 仲裁条項

契約書において準拠法と裁判管轄を定める代わりに、契約解釈を巡る紛争を仲裁で解決する旨の仲裁条項を入れる場合も増えています。

仲裁とは、民事上の紛争について、当事者がその解決を第三者である仲裁人に委ね、その仲裁人の判断に従うことを合意する手続です。

裁判所の判決ではなく、仲裁人の判断に従うことになりますが、執行したい国がニューヨーク条約に加盟している国であれば、仲裁判断も判決と同様に執行することができます。国によっては執行できないこともありますが、相手方の所在国での裁判よりも平等な取扱いが期待できます

当該契約から生じる紛争は仲裁で解決する旨を予め合意して契約書に規定したのがこの仲裁条項です。裁判管轄を相手方に譲るくらいなら仲裁条項を入れるという判断もあります。

仲裁は、各国の仲裁機関が定める仲裁規則に則って手続が進められます。そのため、仲裁条項において、どの仲裁規則に基づいて仲裁を進めるかを規定しておきます。日本の仲裁機関が定める仲裁規則は、日本商事仲裁協会の定める商事仲裁規則です。

仲裁地における仲裁機関が定めた仲裁規則によると定めることも多いですが、契約の当事者の国以外の第三国を仲裁地にする場合もあります。

アジアではシンガポールや香港、ヨーロッパではスイス等が、実績も多く仲裁地として選ばれ易い傾向にあります。また、国際商業会議所(ICC)等のメジャーな仲裁規則によると定める場合もあります。

仲裁条項の例

以下に仲裁条項の例文を記載します。仲裁条項には、仲裁機関・仲裁を行う場所などを盛り込みます。

第◯◯条(仲裁)
本契約に関連して当事間に発生するすべての紛争は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。

まとめ

日本のビジネスの現場では、時として適用される法律以上に重要な商慣習など、企業間における最低限の共通認識のようなものがあります。

日本企業同士であれば、商慣習など企業間の共通認識を前提としてビジネスを進めることができますので、むしろ契約書の内容を厳密に取り決める方が敬遠される傾向すらあります。

しかしながら海外との取引において、お互いの共通理解になりうるのは契約だけです。「商慣習上、こうすることになっているから、相手方も分かってくれるだろう」といった暗黙の了解は一切通用しないのです。

海外の会社との取引においては、当該ビジネスに関する共通認識は契約書に全て規定するという姿勢で臨みたいものです。

参考記事:もう一度確認しよう!ビジネスにおける契約書の必要性について
参考記事:条文の順序と契約解除条項|失敗しない契約書の書き方①

早稲田リーガルコモンズ法律事務所  弁護士 佐藤亮
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