社員が自ら考え動ける、真の企業ブランディングとは

ブランディング」という言葉を耳にする機会は増えていますが、その意味は必ずしも正しく理解されているとは言えないのが実情です。

今回は、弁理士の資格を持つマーケティング・ブランディングの専門家として、主にベンチャー企業支援を中心に「複数企業で働く」というライフスタイルを実現しているイノベーションブリッジ代表の瀧本裕子さんにお話をお伺いしました。


「あなたの強みは何ですか?」に明確に答えられない企業が多い

– 現在の主な仕事の内容についてお聞かせください。

瀧本 裕子さん(以下、瀧本)
お客様のイノベーションを加速させるために、広報、ブランド、知財に関する戦略の立案・実行をサポートしています。

その1つが、より多くの顧客に選ばれるためにブランド力を高める戦略と施策を立案し、実行するお手伝いをすることです。具体的には、その会社の強みはどこにあるのか、顧客にどのような価値を提供しているのか…といった点についてヒアリングしながら、一つずつ明確にしていきます。

もし「あなたの強みは何ですか?」と聞かれたら、「走るのが速いです」といった具合にすぐに答えられると思います。ところが、それが会社という組織のことになると、どんな性格で何が強みなのか、また何が弱みなのか、途端に見えにくくなってしまいます。

「皆さんの会社の強みは何ですか?」と聞かれたときに、即答できない人は少なくありません。同じ会社であっても、人によって答えが違うこともあるでしょう。

そこで、仮にお茶を売っているとすれば、そのお茶のどこが強みなのか。風味、製法、産地、パッケージデザインなど多種多様な切り口から議論を重ねることで、強みや他にない価値を改めて見つけ出して明確にしていきます。

さらに、誰に買ってもらいたいのか、楽しんでもらいたいのか…といったことも再確認しながら、これらの強みをさらに引き出していきます。こうして顧客に選ばれるためのブランド力を高め、広めていくお手伝いをしているわけです。

企業は規模の大小を問わず、良い製品やサービスを生み出し、それらを提供する場所やチャネルを見つけるところまでは自力でこなせることが多いと思います。

ところが、それらをどうやって広く知ってもらうか、どれだけ多くの人に実際に体験してもらうか、このノウハウが不足していると感じます。また、将来の資金調達と人材採用に向けた企業広報戦略に関しても、十分にできているとは言えません。そこで、これらをすべてお任せいただけるように、ワンストップで提供しています。

すでに出来上がったブランドを広める広報戦略だけでなく、知的財産やブランドの価値などを守っていくことも同時に実行していく必要があります。これらを合わせて「攻めと守りのブランディング」と説明しています。

ブランディングに十分なノウハウが揃っていないベンチャーをサポート

– 瀧本さんはもともと大企業出身ですが、支援先をベンチャー中心にしているのはなぜでしょうか?

瀧本
実は自らも前職で新規事業の立ち上げに携わっており、多くのベンチャー企業と接する機会がありました。その際に感じたのが、独自の技術やアイデアを持つ優れたベンチャー企業が数多くある一方で、人手やノウハウが不十分であるために、事業展開の加速に限界が生じてしまう事例が多いことでした。

大企業であれば、それだけでブランド力があります。知的財産や法務の専門部署があるので、法的なリスクを回避し、また自社の知財を守ることもできます。ところがベンチャーの場合は、ブランドの知名度を高めることから苦労しますし、知財を生かしてブランド力を高めていくのもハードルが高いのが実情です。

ブランディングに必要なノウハウや権利化は、社内で何とかこなすか、知人に専門家を紹介してもらう、またはネットで検索して依頼先を探すことになります。気軽に相談できる専門サービスがないので、結果的に手探りになってしまうわけです。しかも、ブランディングと知財戦略は密接に関係しているにもかかわらず、これまでは別々に頼むのが一般的でした。

そこで、こうした課題をベンチャー企業がワンストップで解決できるサービスを提供したいと考えたのです

製品開発の次のステップを用意する

– 広報やブランドの業務に関心を持った経緯をお聞かせください。

瀧本:
父がスポーツメーカーのブランドやライセンスのビジネスに携わっていた関係で、学生時代には「ロゴやマークが付くだけで、なぜこんなに高く売れるのか」と不思議に感じていました。

例えば、アップルの「iPhone」や「MacBook」も、林檎のブランドロゴがあるなしで、売れ行きは確実に変わると思うのです。そうなるのはなぜだろう、選ばれるブランドとは何だろう、と不思議に思ったことが、この世界に興味を持ったきっかけです。

その後、広報やブランドコンサルティングなどの仕事をしてきましたが、基本的に「ブランディング」という軸は変わっていません。企業や製品、サービスといったブランドの広告や広報だけでなく、ブランドを作るところから手がけたり、著作権侵害などからブランドを守る業務にも携わってきました。

言ってみれば、ブランドに関わることすべてを仕事にしてきた、という感じです。

実行に落とし込むまでがブランドづくり

– ブランドを作りに関してベンチャー企業にもっとあればいいなと思うことは何でしょうか。

瀧本:
それは「強みの認識」だと思います。存続する企業には必ず強みがあります。それを認識したうえで、その強みをどう生かし、どのようにブランドを築き、そして市場を切り開いていくべきなのか戦略を立案するわけです。

ただし、それらを実行に移し、さらに目標を実現していくのは非常に難しいのが現実です。

目標を実現するために、スポーツ選手なら地道なトレーニングを積み重ねる必要があります。ところが、企業戦略ではそれがなかなかできない。アップルも、自分たちのブランドコンセプトに沿った製品群にロゴマークを貼り付けただけで成功したわけではありません。

ブランドコンセプトに沿って自分たちの事業をどうするか、自分たちがどうあるべきかを真剣に考え、それらを事業レベルに落とし込んで実行していったからこそ、現在のアップルのブランドができたわけです。

ブランドコンセプトは作るだけではだめで、戦略に落とし込んで実行していくことが大事なのです。

– そうは言っても、社員一人ひとりにブランドを浸透させるのは、とても難しいことだと思うのですが。

瀧本:
確かにおっしゃる通りで、ブランドを組織の内部に浸透させるのはとても難しいことだと思います。特にベンチャーの場合は人数が増えてくると、どうしても創業当初のベンチャースピリットが薄れてしまいがちです。

「こんな会社になりたい」「こんな世の中にしたい」という創業時の思いは、10人や20人の組織であれば完全に共有できたとしても、100人、300人と増えていくと、なかなかうまく伝わらなくなってしまいます。

企業理念の復唱だけでは不十分

– 企業理念を文章にしたり、朝礼で復唱するなどするだけではダメですか

瀧本:
やはり文章や言葉だけでは、受け取る側によって解釈にズレが生じてしまいます。企業理念を作ったとしても、その真意がうまく伝わらなくなってしまうのです。

ブランドとは、会社の”DNA”のようなものです。だからこそ従業員一人ひとりが、自分たちが働いている会社はこういうブランドです、こういう色でこういう性格です、と理解していることが重要です。

言葉になっていることがすべてではなく、なぜその理念が生まれたのか、誰のためにどう行動すべきなのかといった真意までも、誰もが自分たちで理解していないと、会社は同じ方向を向かないと思うのです。

例えば、同じ「業界ナンバーワンを目指す」というミッションがあったとしても、スピードを重視するのか、時間をかけて品質を高めることを重視するのかで、現場の取り組みは大きく違ってきます。その方向性がバラバラになっていては、貴重な人材や時間、そしてコストといったリソースの無駄につながります。そういった事態をなくすためにも、ブランディングは重要になってきます。

東日本大震災のときに、東京ディズニーランドの従業員がお客さまをとっさにバックヤードに避難させたという話があります。あれは「関係者専用エリアに部外者を入れない」ということよりも、「お客さまの安全を優先する」という考えが現場に根付いていたからこそ、現場レベルでとっさに判断して実行できたことです。もしそれが上司や役員などの判断待ちになっていれば、パニックが起きていたかもしれません。

このように企業理念や会社の方針が現場に浸透していれば、さまざまなリスク要因を減らせますし、万が一起きてしまったリスクの収束も素早くなると思うんです。

それを実現させるには、自分たちが目指していることが社会にどんな影響を与えるのか、どんな価値を与えるのか、ということを経営者が繰り返し繰り返し生の声で伝える仕組みを作るしかありません。

大きい会社になるほど難しいとは思いますが、その経営者の思いをどう現場に届けるか、それをどう個人レベルの理解にまで落とし込めるか、ということがカギになると思います。

ブランディングはトップから

こうした事例から見てもわかるように、ブランディングとは企業のトップがその重要性を認識できていないと意味がありません。

自分たちの強みについてきちんと認識したうえで、それを現場に展開して共感してもらえる仕組み作りができていないと、組織もブランドもバラバラになってしまうと思います。

逆にそれがきちんとできてさえいれば、現場の一人ひとりが自ら考えて行動し、ブランドをさらに強いものにしていくことができるはずです。

記事提供:Business Nomad Journal
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